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東京地方裁判所 昭和55年(ワ)8601号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

二そこで、昭和五一年七月及び昭和五四年七月における本件土地の適正な賃料額について判断する(なお、原告は、昭和五一年六月二一日に増額請求権を行使しているが、これは、弁論の全趣旨により翌月から増額する趣旨であることが認められる。)。

ところで、本件土地の賃料が、昭和五〇年一〇月九日、原告と被告との間で裁判上の和解(当庁昭和四九年(ワ)第六六〇七号)において月額三万円と合意されたこと(抗弁中の事実)は、当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、原告及び被告間の本件土地の賃貸借契約は、昭和二四年六月一日に成立し、昭和四四年六月一日に更新し、昭和六四年五月三一日まで継続するものであるが、当初は当事者間に特別の親睦関係があつたため、賃料も通常の賃料額より相当低い額で合意されていたが、昭和四九年頃からは賃料額をめぐつて紛争が生ずるようになつたこと、本件土地は、面積は686.57平方メートルで、東急東横線中目黒駅の西方直線距離約五六〇メートルの地点に位置し、日用品小売店舗、一般住宅、団地等の混在する比較的閑静な住宅地域の中にあり、周辺居住者の生活状況も良く、近辺には小学校、病院、派出所等も存し、上下水道、都市ガスの設備も完備していて居住環境としては良好であることが認められ、右認定に反する証拠はない。

ところで、鑑定人小谷茂の鑑定の結果によれば、同鑑定人は本件土地の昭和五一年七月における適正賃料を五万円、昭和五四年七月における適正賃料を六万七〇〇〇円と判断しているが、右判断は、いわゆる利回り方式、スライド方式及び賃貸事例比較法の三方式を総合勘案した結果であることが認められ、当裁判所も、右判断方法は本件については正当なものと考えるが、前認定のとおり右賃貸借の成立当初に原被告間に特別な親睦関係があつたこと等の事情にかんがみ、原告の各増額請求権の行使の際の本件土地の適正賃料を次のとおりと認めるのが相当である。

1 昭和五一年七月二五日においては、一か月四万三〇〇〇円。

2 昭和五四年七月二五日においては、一か月六万三〇〇〇円。

したがつて、原告の右増額請求権の行使によつて、右1、2の賃料に増額する限度でのみその増額の効果が生じたものというべきである。

次に、昭和五六年三月における適正賃料につき判断するに、右1、2の各賃料の上昇の傾向及び前述の認定事実に弁論の全趣旨を総合すれば、右同月における適正な賃料は、一か月七万一〇〇〇円と認めるのが相当である。なお、原告は、本訴において、右同月以降における賃料が一か月一一万二四三〇円であることの確認を求めるが、その実質は、右賃料を右同額に増額する旨の増額請求権の行使であると評価することができるから、結局、前認定のとおり、右同日において賃料を一か月七万一〇〇〇円に増額する限りで増額の効果を認めて差し支えないものというべきである。

したがつて、原告及び被告間の本件土地の賃貸借の一か月の賃料は、別表二の「認容額」欄記載のとおりと認められ、被告は、昭和五一年七月から同表中「支払額」欄記載のとおりの額を毎月支払つているから(このことは、当事者間に争いがない。)、その差額は、同表中「認容額との差額」欄記載のとおりとなる。また、支払日が毎月二五日であることは、当事者間に争いがないから、借地法一二条所定の差額に対する年一割の利息は、別表一中「認容額」欄記載の各差額金につき、同表中「支払日」欄記載の日の翌日から生ずるものと認めることができる。

三被告は、原告の本件増額請求権の行使が権利の濫用である旨主張するので判断するに、まず、原告が前記訴訟上の和解の際に当分の間値上げをしない旨約したことを認めるに足りる証拠はない。ところで、借地法一二条に規定する当事者の賃料増額請求権は、賃料が土地に対する租税その他の公課の増減若しくは土地の価額の昂低に困り不相当となつた場合、又は、比隣の土地の賃料に比較して不相当となつた場合に当然に客観的な「適正な賃料」にまで増額することを請求する権利であつて、いわば賃料を可及的に右「適正な賃料」に一致させようとするのが、その制度の趣旨であると解するのが相当である。したがつて、実際の賃料と前記「適正な賃料」との間に格差を生ずるに至つた場合には、仮に増額請求権の行使時期が先きの賃料改定時から一〇か月程度の期間を置いたにすぎない場合であつても、右の増額請求権の行使を権利の濫用ということはできないというべきである。前述のとおり、昭和五一年七月における本件土地賃貸借の適正賃料は、四万三〇〇〇円と認めるべきであつて、従来の賃料との間には相当程度の格差が生じているというべきであるから、結局、この点で原告の昭和五一年七月二五日の増額請求権の行使を権利の濫用ということはできない。また、被告は、原告の右請求権の行使が被告に精神的苦痛をもたらし、かつ、原告は被告の話合いの要求に応じない旨主張するが、仮にその事実が認められるとしても、それは、そのことの故に原告の権利行使の利益を奪わなければならないほどの著しい損害ということは到底できないから、原告の右請求権の行使が権利の濫用になるとはいい難く、右の点を理由とする被告の主張も失当たるを免れない。したがつて、被告の抗弁は理由がない。

(慶田康男)

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